広告会社が果たすべき役割(当たり前のこと)


広告会社にいると、「クライアント以上にクライアントのことを理解するべく頑張る」という言葉をよく耳にする。少なくとも耳にしてきた。ただ、これは誤解すると危ない。この言葉はあくまで比喩表現であって、クライアント以上にクライアントのことを理解できる広告会社なんて、ない


あくまで限定的にプロダクトについて競合を研究し切ったり、クライアントが持っていない、もしくは持ち得ないデータソースを手に入れて情報量の面で優位に立ったり、高度な分析手法を用いてブレイクスルー的な打ち手を見つけたりすることがあるかもしれないけど(まあ、ほとんどないけど)、例えば財務状況をクライアントの財務担当者以上に知ることなんて無いだろうし、企業の戦略を事業戦略担当以上に知ることなんて、あるはずが無い。


そういうことを前提に広告会社が果たすべき役割を考えなきゃいけない。クライアントの、特にマーケティング関連セクションの体制を知りうる限り把握して、組織的に不足している部分はどこか考えてそこを補完する動きを行うことが肝要。例えば、先端技術のキャッチアップが遅れていて技術の進歩を自社の価値に転化できてないとか、クリエイティビティがそもそも足りていないからそれを補完するとか、フォーカスすべきところにちゃんとフォーカスすべき。


で、フォーカスした、し切ったときに「こりゃ事業戦略がないとクリエイティブ作れないわ」とか「こりゃ財務情報ある程度ないとメディアポートフォリオ成立しないわ」とか、そういうことになったら聞けばいい。聞くことに明確かつ正当な理由がありさえすれば教えてくれると思うし、それでも教えてくれない場合、それが現場担当者レベルである場合はさらに上のひとにプレゼンさせてくれるように頼んだらいい。


何が言いたいかっつーと、広告会社が果たすべき役割が広がってきた、みたいなことを言って、本来フォーカスすべき部分から少しぶれている人が多いんじゃないかしら、と思うことが多いから。ヒアリングでいきなり「御社の戦略を共有いただきたい」って言ってみたりとか。笑えるを通り越して肝が冷える。「何でですか?」って聞かれたらちゃんと答えられるんだろうか。「広告戦略は事業戦略の下位概念で、上位概念を理解することによってプランニングの精度があがるんです」とか答えて「よし、100点」とか思ってたりするんだろうか。こええ。


領域を自ら狭めるなんて片腹痛いって? そうじゃない。代理店モデルである以上、フォーカスしない部分は適切なパートナーをアサインすればいい。そこまでやろうとするからぶれるし、そもそもそこまでやるべきじゃない。あ、もちろんやるべき周辺・関連ドメインはやるのですよ。戦略的に。そうじゃないとシュリンクするし。事業が。


良い意味で「身の丈」知ろうぜ。ちなみに誰か特定の個人に対して書いてるわけではありません。念のため。