Googleが個人情報を集めた後にやるべきこと


GoogleパーソナライズドホームのURLになんで「ig」ってついてるんだろうと不思議に思い続けて何ヶ月。プロダクト名称の変更という非常にあっさりした結末を迎えるとは思ってませんでした。iGoogleの頭文字だったわけですね。


で、だいぶ前からこの「iGoogle」を使っているわけですが、はてブからたどりついたエントリに以下のようなコメントが。

『おお、このテーマは日没とか確認できるんだ』等と思い軽い気持ちで入力しましたが、他のテーマも実は全て聞いてくることに気が付きました。

つまり、私という人間が旭川市にいると言うことを軽く聞かれ、軽い気持ちで答えてしまったんです。


iGoogleにさらっと個人情報の一部をもっていかれた。きっとこの先の広告展開に使われますよね*ホームページを作る人のネタ帳
http://e0166.blog89.fc2.com/blog-entry-158.html


まったく同じように居住地域を入れてしまいました。何も気づかずに 笑
ただ、個人情報にあまり敏感ではない方なので、いまだに気持ちは「軽い」ままですが。


Googleが現在さまざまな手段を利用して私たちユーザーの情報を手に入れようとしているのはもはや当たり前の事実なのですが、Gmailという非常に優れたWebメールサービスを無料で提供することで、爆発的にその所有者が増加したGoogleアカウントに日々積み重ねられているユーザーの情報を、Googleが最大限に活用(平たく言えばマネタイズと顧客満足度の向上)できているかというと、決してそうではない、と考えています。


Googleは広告収入で成り立っている企業ですから、当然その売上を拡大させるためにユーザーの情報を使う、使いたいのだと思います。そう思うのは「ユーザーのことをより深く理解すればより精密なターゲティングを行うことができ、アクション率が高まる。アクション率が高い広告は広告主から支持され、枠の価値が高まり、売上が増大する」という理論に基づいているのでしょう。


ただ、ここで疑問なのは、「はたしてユーザーの行動をトラッキングすることで、本当にユーザーが求めている情報をサジェストできるのか」という問題。


Googleのプロダクトを普段利用されている方は、すこし想像してみていただきたいのですが、Gmailでのやり取りの内容が全てトラッキングされて、かつ検索キーワードの傾向も時間や曜日とともにトラッキングされるとします。例えば恋人にデートの約束のメールを送ったり、デートのためにレストランの営業時間を調べたり、とか。そんなことばかりしているとします。あくまで仮定で。


で、そんな彼があるとき「東京 レストラン 夜景」と検索したとしましょう。日ごろから行動を把握しているGoogleの(アド)サーバはその彼が検索したことを判別して、デートに最適な、夜景の美しい、ちょっといやらしい感じのレストランの広告を出すことになるでしょう。それが「ユーザーの行動に基づくマッチングによる広告の露出」でしょうから。


ただ、その彼は仕事中に上司から接待のアレンジを命じられていて、スノッブな感じの夜景が楽しめる高級レストランについての情報がほしかったとします。ただし、「行動履歴に基づくマッチング」を重視するGoogleはなかなかその情報を教えてくれません。困った彼は仕方なくザガットサーベイを買いに本屋に走ります……という需要と供給のミスマッチが多々発生するのではないかと思うのです(この例は極端であるにせよ)。では、それはなぜ起きるのか。


インターネットを長く利用しているとよく陥りがちなのが、「ユーザーはインターネット上のみで生活している」という、少し考えれば爆笑してしまいそうな前提をついつい採用してしまうこと。よほどのデジタルガジェット好きは例外として除くと、人間が1日のうちにインターネットを利用している時間なんて、たかが知れているでしょう。さらにその時間のうち、Googleに自らの情報を送信できる状態なんて、ほんの数パーセントでしょうし、もしかしたらまったく使わない日だってあるかもしれません。


そのわずかな時間以外の大部分では、人間はさまざまなオフライン情報と出会います。他人と話し、中吊り広告に気をとられ、テレビドラマを見ます。そんなさまざまな情報を元に、人間はいかなる行動をするかの意思決定を行っているわけで、それがインターネットに限定されて行われるなんていうことは、現時点では絶対にありえません。


よって、現時点でGoogleが行っているユーザー情報のトラッキングは、ユーザーに対してよりマッチング精度の高い情報を提供できるようになる、ということにはあまり有意な影響を及ぼさないのではないか、ということが私の考えです。GmailGoogleTalkの内容見ようが、検索履歴取ろうが、マーケターや広告主にとってはあまり関係ないんじゃないかな、と。


では、このエントリのタイトルである、「Googleが個人情報を集めた後にやるべきこと」ですが、このタイトルは不完全で、「Googleオンラインで個人情報を集めた後にやるべきこと」とすべきですね。当然ながらオフラインにおけるユーザーの行動履歴をトラッキングすべき、ということになるでしょう。


ただし、Googleはオフラインにも確実に既にその魔の手を伸ばしており、

Google、テレビ広告配信のトライアルを発表
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/04/03/15296.html
Google、ラジオ広告サービスのベータテストを開始
http://japan.internet.com/wmnews/20061211/12.html
Google、紙面広告プログラムの試験運用実施へ
http://japan.internet.com/wmnews/20061107/12.html


徐々に私たちの生活はGoogleによって包囲されてきているようです。


あまりアカデミックな知識がないので、例えば人間の行動全てをトラッキングした場合に、次に欲するものがわかるようになるのか、というのは行動分析学とかを学ばないとはっきり言えないのですが、Googleならば膨大なデータを洗練されたロジックを元にプロセスすることで、ユーザーの「次の一手」を読みきる可能性がないともいえない気がしますね。


もしも本当にそうなった時、人間は幸せなんでしょうか。そもそもそれは人間なのでしょうか。


どこまでいってしまうのか、Googleさん。マスタープランに描かれた「WORLD PEACE」だけが頼りです。

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追記(070507):


以下のようなブクマコメントをいただいていますが、

Googleのユーザートラッキング行為について良い視点を与えてくれるが、夜景の見えるレストランの検索にて、プライベートと勤務先にて同じパソコンを使うだろうとの前提に過誤がある。


「プライベートと勤務先にて同じパソコンを使う」ということは想定しておらず、「プライベートと勤務先にて同じGoogleアカウントを使う」ことを想定しています。


念のため言及まで。